グランドピアノの左側のペダルは「シフトペダル」と呼ばれます。(ソフトペダルという場合もあります。)
一度グランドピアノの左のペダルを踏んで鍵盤がどう動くかを見てください。鍵盤全体が「ガサッ」という感じで右へ5mmほど動く事が分かりますよね。
そうです、鍵盤というよりは「アクション」つまり鍵盤を押してハンマーが弦を打つまでの機構全体が右へスライドして移動するのです。その結果どうなるか?ハンマーが今まで打っていた弦の位置より少し右に移動します。その結果、ハンマーのやわらかい部分と弦が接触しますので、少し柔らかい音がします。
今まで打っていた弦の位置には打弦の跡が付いています。打弦の痕が付くことによって、「アタック感」つまり「こつんと当たった感触や響き」が得られていたのですが、シフトペダルを踏み込んで音を出しますと、それまでとは違う、「オヤ?」と思うような音が出ます。
もう少しペダルを踏み込むと、今までは3本の弦を打っていたハンマーが2本の弦を打ち、1本は打たないという現象が起きます。その結果、実は、2本の弦の振動が打たれていない弦を共振させ、少し遅れて音を発生させるため、「音が伸びている」と感じさせます。
ピアニストは例えばソナタの緩徐楽章などで、このシフトペダルの踏み込み程度による表情の差異を利用して聴衆を自らの音楽に引き込んで行くのです。
更にこのペダルの活用に巧みなピアニストは、ハンマーに付いた打弦痕の利用において、次のようなシフトペダルの利用をすると言われています。
筆者はこれまで経験したコンサートの中で鈴の音のような、あるいはチェンバロに似た音色を聴いたことがあります。その音はどのようにして出ているのだろうか?小生の推測は、弦痕の溝が必ずしも一致せず、少しずれて弦の溝の側面をこすり、振動の残った弦と接触してこの微妙な音が出ているのか、それとも外れた弦の側面をハンマーの側面がこすっているのか、という事ですが真相は分かりません。
ただしここまで多彩なグラデーションを生み出すシフトペダルの利用には、普段より良く調整されたピアノの存在と、音のグラデーションを作り出そうとするピアニストの音楽性と技量が不可欠だろうと思います。
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