鍵盤ブログ
2023/01/29
ピアノの整備

動画で視る三木楽器のピアノ修理・再生工程

この記事では、三木楽器のピアノ工房であるMIKI GAKKI Piano Atelierでのピアノメンテナンスの工程を動画でご紹介します。
かなり長大な内容ですが、ピアノの再生工程を詳しくご紹介しておりますので、お時間のあるときにぜひご覧ください。

なお、動画のBGMにはピアニスト野上真梨子さんの三木楽器開成館サロンでのリサイタル音源を使用しています。
演奏をすべてお聴きになりたい方は右記リンク先へどうぞ。https://youtu.be/7IOgFs1ofLY

はじめに

ピアノには木材や羊毛のフェルトなど自然の素材がたくさん使われています。 自然の素材は月日が経ったり、温度や湿度によって変化します。ですから、中古ピアノをもう一度再利用するためには調整したり修理する事が欠かせません。変化したピアノを本来の弾きやすい状態に戻してあげます。
ピアノの中の部品それぞれがうまく働いてくれるように調整する事を「整調」といいます。

鍵盤の調整

ピアノを弾く人は鍵盤を通して音楽を表現します。
鍵盤を押すと「ハンマー」が弦を打ちます。そして弦の振動が「響鳴板」を震わせて音になります。弾く人が鍵盤を弾きやすいように、ピアノの中にたくさんある部品の働き方を整える事はピアノの整備の基本中の基本です。お店に展示されている中古ピアノをご覧ください。外側は綺麗に塗装され、鍵盤も整然と並んでいます。
でも鍵盤がきれいに並んでいるその見えない舞台裏では調律技術者が様々な細かやかな整備をしているんです。

鍵盤の抵抗を調整

鍵盤はシーソーのように動きますが、それを支える2本の軸、ピンがあります。鍵盤の調整は、まずこちらのピンを磨くことから始まります。
(鍵盤抵抗調整)
次に鍵盤の抵抗を調整します。鍵盤を持ち上げてそれが自然に落ちる速さを見ています。早過ぎると抵抗が少ない、遅いと抵抗が強すぎます。これを適度な抵抗に調整して行きます。

ブッシングクロスの交換

鍵盤は前後のピンに支えられてシーソー運動をします。ピンは金属、鍵盤は木材です。これが直接当たるとカタカタ雑音が出ますので、鍵盤に開けられた穴にクロスが貼られています。これがクッション材になって、鍵盤を滑らかに動かします。
普段は私たちの目に触れないのですが、鍵盤をはずしてみると、少し奥の表側と、手前の裏側に赤い布がのぞいているのが分かります。この穴に貼られたクロス、布ですね、これをブッシングクロスと言います。
ブッシングクロスはよく使われるとすり減ってしまいますので、鍵盤が横ぶれしたりガタついたりします。そうなってしまうとブッシングクロスの交換が必要です。
ブッシングクロスは88の鍵盤に前後にふたつずつあり合計176個あります。
これらを全てまたは一部を交換します。結構時間のかかる仕事です。

鍵盤の高さ調整

次に鍵盤の高さを揃えます。高さがそろっていないとグリッサンド=手のひらや指などで鍵盤を下から上、上から下へ押し滑らせて音を出す奏法=などがスムーズに出来ませんし、高さがばらついていたら弾く人も戸惑ってしまいますからね。
高さを揃えるにはこのように定規を当てて、飛び出したりへこんだりしている鍵盤を探します。そして鍵盤の丁度真ん中あたりにあるバランスキーピンに薄い紙を出したり入れたりして高さを揃えます。この紙の事をパンチングペーパーといいます。薄いもので0.03ミリです。この調整を88個の鍵盤すべてで行います。

鍵盤の深さ調整

次に鍵盤の深さを調整します。深さとは、鍵盤を押して行って何ミリ押すと底に到達するか、という事です。メーカーを問わずほとんどのピアノの鍵盤は深さ10mm、つまり、1cmで調整します。深すぎると指がもたつきますし、浅すぎると力強い音を出しにくくなります。88keyつまり全部の鍵盤全て10mmで調整されている事で、弾く人は自分の弾くスピードや打つ力の重さをコントロール出来るわけです。
深さの調整では専用の「あがき定規」を使い、先ほどと同じようなパンチングぺーパーを出し入れして88keyすべてを10mmに揃えていきます。

アクションの調整

アクションのねじ締め

次にアクションの調整です。アクションとは、鍵盤を弾いたあと、ハンマーが動いて弦を打つまでのメカニズム、機構の事です。まずアクションのねじのゆるみがないか調べ、増し締めします。建物と同じで、基礎工事が大事ですね。

打弦距離の調整

打弦距離とは、鍵盤を押したときにハンマーが動いて弦に当たるまでの距離を言います。打弦距離により音色や音の大きさも変わります。各メーカーとも47mm前後に設定しています。一番良い打弦距離に調整する事により、弾く人がピアノの音色や音の大きさをコントロールし易くなります。

ハンマー弦合わせ、走り・ねじれ修正

さて、ハンマーが弦に当たると音が出るわけですが、当たり方が問題です。
弦は中音部から高音部は一つの鍵盤で3本の弦を叩くことになります。低音部は2本、最低音部は1本です。3本の弦の面に対してハンマーが垂直に動いてハンマーの真ん中で打たないと本来の良い音がしません。ゴルフでもテニスでもよく言われる「スイートスポット」ですね。ですが、年数が経過した中古ピアノの場合、垂直でなく斜めに走ってきてスイートスポットを外れ、また弦に対して斜めに当たっている事もあります。これらを88key調整していきます。

から直し

鍵盤を押してハンマーが弦にあたるまでの機構・メカニズムをアクションといいます。鍵盤を押すとこのジャックという細長い部品がバットという部品を突き上げてハンマーが動き始めます。演奏者が鍵盤を押した時にその動きがアクション・ハンマーにロスなく伝わるように調整していきます。
ロスがあってはいけませんがやりすぎると鍵盤を押してもいないのにアクション・ハンマーが動きかけている状態になっている事もあります。それは勇み足というものですね。いわば優秀な部下のように、フライングはせず、上司(弾く人)の命令(演奏)があったら直ちに指示の通り動く、そういう準備をしているという事ですね。 また、この時に鍵盤の先に立ち上がっているキャプスタンボタンが正しくアクションを押し上げるように位置の調整もします。

接近(レットオフ)調整

皆さんは太鼓をたたいたり、お仏壇のりんを「チーン」と鳴らしたことがありますよね?その時に太鼓のバチやりん棒はたたいた後かならず太鼓やりんから離しますでしょう。そうしないと折角の振動が止まってしまい、良い音がしませんよね。
同じようにピアノの鍵盤を押してハンマーが弦を打った後、ハンマーが素早く弦から離れるように調整できる仕組みがピアノには組み込まれています。それを「レットオフ」といいます。
鍵盤を押し下げていくとこのジャックという長い棒がバットという部品を突き上げていき、ハンマーが弦に向かって動きますが、更に押し下げるとやがてこのレギュレーティングボタンに動きを抑えられてバットから外れて行きます。それによってハンマーは自由になり、勢いで弦に一瞬接触したあと、離れて止まります。それにより弦は振動を続け、音・響きが持続します。(なお鍵盤から指を話すとこのダンパーという部品が弦を抑えて音は止まります。)
この時の調整の仕方ですが、ハンマーが出来るだけ弦に近づくまで鍵盤の力が伝わったほうが、演奏者にとっては良いのです。何故かというと、鍵盤を押し下げる途中でハンマーがフリーになってしまったら、演奏者はもうハンマーを動かすスベがないからです。鍵盤を押し下げる10mmの間の一番下の直前まで、指の力がハンマーに伝わった方が、気持ちを込めて弾けますよね!
その為、このレットオフされる位置の調整を88個の鍵盤でやっていきます。 低音部は3mm、中音部で2.5mm、高音部で2mmに調整していきます。 逆にこの間隔、「接近」がゼロまたはそれ以下になってしまうと、バチで押さえつけた太鼓のように音が止まってしまいます。そうなったときの音を動画でご確認ください。

バットスプリングコード交換

月日が経つ事で悪くなる部品もあります。バットスプリングコードがそれです。バットスプリングコードは鍵盤を弾いた後ハンマーを素早く元に戻す役目があります。
しかし2~30年ほどたつとこのように茶色くぼろぼろになり、切れてしまいます。そうすると同音連打、つまり同じ鍵盤を早く弾くことがやりにくくなりますから、そうならないように、交換する必要が出てきます。
これを交換するには、以前のコードを88key全て取り去り、新しいコードに貼り替えます。結構根気のいる仕事です。交換した白いスプリングコードと交換前のものを比較しました。ご覧ください。

ペダルの調整

ダンパー総上げ-ピアノの修理・調律・再生

ピアノを弾く人が触るのはひとつは鍵盤なのですが、もう一つはペダルです。そのペダルの中でも右側のペダル、ダンパーペダルは、音を持続させたり切ったりしますので音楽を表現する上ではとても重要な役割を果たしています。ピアノ整備の折のダンパー調整の様子をご覧ください。
[ダンパー総上げ]
ペダルを踏むとダンパーが一斉に弦から離れ、ペダルを戻すとダンパーが一斉に、同じタイミングで寸分狂わず弦に触れて音がとまるように調整します。音を切ろうとしてダンパーをオフにしても一部の音だけ残ったりすると困りますからね。

ダンパー掛かり調整

鍵盤を押し下げて行って5mm(行程の半分)ほど下がったところでダンパーが弦から離れ始めるように調整します。
ダンパーが弦から離れるのが早すぎると、つまりダンパーの掛かりが早過ぎると全体に「モワーン」とした響きになり、歯切れのよい演奏になりません。打鍵の感触もダンパーを早くから動かすのでやや重く、抵抗感のある感触になります。また、逆に指が鍵盤から離れて行くプロセスでいつダンパーが弦に接触して音の持続を止めるか、については音楽の表現上とても重要です。レガート、スタッカート、テヌートなど「アーティキュレーション」する場合は一つのポイントになります。演奏者がそれをコントロールしやすいのは鍵盤の10mmの行程の丁度中ほどになる訳ですね。

整音

ハンマーファイリング

良く弾かれたピアノはハンマーに弦の跡がくっきりと付いていたりして金属的な音色になっている事があります。また、88鍵盤の真ん中あたりが特によく使われていて音色が固く感じられたりします。その場合は「整音」という作業をして音を整えます。
[ハンマーファイリング]
長年良く弾かれたピアノはハンマーに弦の痕がくっきりとついています。そうすると弦に当たる面積が増えてやや金属的な音になっています。そこで紙やすりを使ってハンマーを一皮剥いて、元の卵型のように形を整えます。それにより打弦点が面から点に近づき、打弦した時の弦振動の波形がきれいな形になるため、心地よい音に近付きます。

ハンマー針刺し

ハンマー針差し 長年良く弾かれたピアノはハンマーが締まって固くなっていますので、ハンマーに針を刺してほぐし、弾力性を持たせます。
これらの作業によって、ピアニッシモではソフトな中にもくっきりとした音の形を持ち、フォルテでは力強く鳴ってくれるピアノに仕上がるよう力を注いでいます。

ハンマー弦合わせ

整調のところでもご紹介したのですが、音色・音質にばらつきがみられる場合には、この整音の工程でも再度弦とハンマーの当たり具合を見直して調整する事により、より良い音作りにさらに努めます。

外装修理

黄色くなった白鍵前面(木口)の交換

月日が経つと黄ばんでくるのが白い鍵盤の正面に向かって垂直に立っている面です。これを白鍵の木口(コグチ)といいます。機能の面、性能の面では特に問題はないのですが、黄ばんでいてはいかにも古びた印象になりますので、54の白鍵からこの木口を全てはがし新しい真っ白の鍵盤木口に貼り替えをします。
動画をご覧ください。まず、黄色くなった木口を剥がします。比較的簡単にはがれるものと、ずいぶん苦労するものとがあります。そして新しい木口を貼り付けます。木口を貼り付けても鍵盤の木材よりも少し広いので、同じ大きさに削り取り、滑らかになるよう処理します。
木口を交換したピアノをご覧ください。フレッシュさを感じますね。

黒いピアノの塗装修理

ピアノの外観、塗装の修理について見てみましょう。
日本にあるピアノの8割は黒くて光っているピアノですよね。でも長年使っていますとスリ傷や打ちキズへこみキズがどうしても付きます。とくに鍵盤のフタのところはキズが付きやすいですね。実はあまり深くないスリ傷は回転する工具(バフといわれます)で磨いてやると消えてなくなります。塗装の膜に厚みがあるので多少磨いても十分塗装の厚みが残っているからです。
 しかし深いスリ傷や打ちキズ・へこみキズは塗装の厚みではカバーできません。
そこで、ピアノにそのようなキズがある場合は、キズを中心にした周りを一度細いドリルで塗装の膜を削り取ります。そして削り取ったあとに、同じ成分の塗料を埋めます。塗料が乾いたら、目の細かい紙やすりでキズの周辺をたいらにします。そしてそのあと、念入りにバフをかけます。そうするとキズは完全に消え、新品とほぼ同じ、キズのない艶光りした黒いきれいな、面に仕上がります。黒いピアノのほとんどのキズはこの方法で修理が出来ます。
 この鍵盤蓋を修理したピアノが丁度店頭に入った時の動画をご覧ください。

白いピアノの塗装修理

木目ではなく、白やアイボリーなど、あるいはブルーやピンクなど塗装の色を変えたピアノの外装修理も可能です。白など明るい塗装は色合いの調整が難しく、外装技術者も悩みながら仕事をこなしていっています。
この白いピアノが完成して店頭に入った様子をご覧ください。こちらは先日、アトリエで塗装修理していた白いピアノです。
塗装したパーツと磨いただけでOKのパーツの色合いに違いがないかを、塗装の担当者が慎重に見比べていました。このピアノは早々とお客様に要望されお納めさせていただきました。

木目外装ピアノの塗装修理

木目ピアノの外装修理の一番目のポイントは色調つまり色を合わせる事です。
もうひとつは木目模様についたキズの処理です。
色合わせですが、日光による日焼けのせいで場所により色合いが違ってきたり、手や衣服が触れてしまう「カド」、エッジ部分が少しはげかかったりしますので、外装の技術者が色を塗ったりして不自然でないように仕上げていきます。
こちらは塗装前の外装パーツです。小さな打ちキズ、へこみやスリキズを修理した上で塗装していきます。また、木目のところに深いキズが付いたりした場合は、へこみの部分をパテで埋め、色調を合わせ、木目を筆で描いてから上から塗装する事もあります。
先ほど塗装をした木目ピアノの一番上の蓋です。これは蓋の内側になりますが、艶消し塗装の仕上がりがきれいです。

おわりに

三木楽器の中古ピアノはこのように「外観はきれいに、音は表現力豊かに、タッチは弾きやすく」をモットーに一同が日々努力しています。是非一度大阪本町の開成館にご来店いただいてご覧くださいませ。スタッフ一同お待ちしております。

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